パーキンソン病の患者さんの45〜68%が、転倒の高リスクに分類されます。誰と暮らしていても 心配な数字ですが、ひとり暮らしはひとつだけ事情が違います——倒れたあと、すぐそばに助けを呼べる 人がいないことです。ですから備えるべきなのは「どうすれば転ばないか」だけではありません。 「転んだとき、どれだけ早く助けが来るか」までを先に用意しておくことです。
助けを呼ぶ手段を用意してください
首から下げたり手首に着けたりする緊急通報装置は、ボタンを押すと24時間対応の窓口に すぐつながります。最近の機器には、動きの向きや速さを測って転倒を自動で検知するものも あり、倒れたあとぼんやりして自分でボタンを押せない状態でも通報が飛びます。完璧ではなく、 急に座ったり大きく動いたりしたときに誤って反応することもありますが、それは使わない理由には なりません。
多くの市区町村が、ひとり暮らしの高齢の方などを対象に緊急通報システムの設置事業を 行っています。ただし対象の要件(年齢、世帯の状況、心身の状態)も費用の負担も自治体ごとに 違います。使えるかどうか、いくらかかるかは、お住まいの市区町村の高齢者福祉の担当窓口か 地域包括支援センター市区町村が設置する高齢者の暮らし全般の相談窓口です。介護保険の要支援1・2の方のケアプランもここが担当します。詳しく見るでご確認ください。
地域包括支援センターが最初の相談先です
どこに相談すればよいかわからないとき、日本での入口は地域包括支援センターです。 市町村が設置している高齢者の総合相談窓口で、相談だけでなく権利擁護や介護予防の援助も行います。 厚生労働省によれば全国に5,487か所(支所を含めると7,374か所。2025年4月末現在)あります。 お住まいの地域のセンターは、厚生労働省のページから都道府県ごとの一覧をたどって探せます。
ひとり暮らしの方が受けられる配食や見守りのサービスも、市町村の事業として行われている ことがあります。何がどこまで使えるかは地域によって違うので、まとめてここで聞いてしまうのが 早道です。
介護保険の訪問サービスを使えます
ここは見落とされがちです。介護保険は65歳以上の制度と思われがちですが、 40歳から64歳までの方(第2号被保険者)も、要介護状態の原因が政令で定める16の 「特定疾病介護保険法施行令第2条に列記されている16の病気です。40歳から64歳の方でも、要介護状態の原因がこの中のどれかであれば要介護認定を申請できます。詳しく見る」による場合は要介護認定を申請できます。この特定疾病には 「進行性核上性麻痺、大脳皮質基底核変性症およびパーキンソン病」が含まれています。 ひとり暮らしで、まだ65歳になっていないという理由だけであきらめてしまうのは、もったいない ことです。
認定を受けると、たとえばこうしたサービスが使えます。
- 訪問介護(ホームヘルプ) — 訪問介護員(ホームヘルパー)が自宅を訪問して、食事・排せつ・ 入浴などの身体介護や、掃除・洗濯・買い物・調理などの生活援助をします。通院の ための乗車・降車の介助を行う事業所もあります。
- 訪問看護・訪問リハビリテーション — 看護師やリハビリの専門職が自宅に来ます。
- 通所介護(デイサービス)・通所リハビリテーション(デイケア) — 日中出かけて 過ごします。人と会う機会にもなります。
⚠️ 訪問介護でできないこともあります。利用者本人の援助にあたらないこと(ご家族のための家事や 来客の対応など)や、日常生活の援助の範囲を超えること(草むしり、ペットの世話、大掃除、窓ガラス みがき、正月の準備など)は頼めません。何を頼めるかはケアプランで決まるので、困っている ことは遠慮せず担当のケアマネジャーに具体的に伝えてください。
費用は原則1割(一定以上所得者は2割または3割)です。厚生労働省の資料では、1割負担の場合の 訪問介護の目安として身体介護の30分以上1時間未満で1回387円、生活援助の45分以上で1回 220円といった額が示されています(お住まいの地域区分によって変わります)。また、自宅で 使うサービスには要介護度ごとに1か月あたりの支給限度額が決められていて、限度額を超えた 分は全額自己負担になります。ご自身の限度額と、その中で何をどれだけ組めるかは、担当の ケアマネジャーに確認してください。
パーキンソン病で使える医療費の助成については 難病医療費助成制度の記事にまとめています。
近所の方と前もってつながっておいてください
信頼できるご近所の方や、集合住宅なら管理人の方に事情を伝えて、毎日決まった時間に声を かけてもらえないか頼んでみてください。合鍵をご近所の方かご家族に預けておくと、鍵がかかった まま応答がないときに時間を失わずに入れます。決まった時間に短くメッセージか電話をやりとりする 習慣だけでも、異変にずっと早く気づけます。
調子のよい時間帯を中心に一日を組んでください
体がいちばん楽な時間帯に、大事な約束や家事を寄せて計画してください。調子のよい日と つらい日それぞれで自分がいくつのことをこなせるのかを把握しておくと、無理な予定を入れて 疲れきってしまうことを防げます。
薬の時間を逃さないようにアラームをかけておくことも大切です。声をかけてくれる人がそばに いないぶん、服薬の時間を書き出して目につくところに貼っておくやり方がよく効きます。
物は見える所に、危ない所は先に手を入れて
よく使う物は取り出しやすい場所に定位置を決めておくと、調子の悪い日に探しまわらずに すみます。部屋ごとの転倒の危険をどう点検するかは 転ばない家にするでくわしく取り上げています。
孤独と意欲の低下にも目を向けてください

ひとりで暮らしていると、意欲の低下(アパシー)、疲れ、社会から切り離された感じが、より重く のしかかることがあります。これは気持ちの持ちようの問題ではなく、パーキンソン病そのものの症状 であることがあります。 気持ちが沈むときでも書いたとおり、ひとりで 抱えるより、主治医や医療ソーシャルワーカー、心理の専門職に伝えて助けを借りるほうがずっと よい結果になります。
同じ立場の方と話す場もあります。全国パーキンソン病友の会は43の都道府県支部をもつ患者会で、 お住まいの地域に支部があるかは公式サイト(jpda.jp)で確かめられます。
迷ったときの連絡先を決めておいてください
命に関わると思ったら、迷わず119です。ただ「救急車を呼ぶほどだろうか」と迷う場面も あります。そのために救急安心センター事業(♯7119)があります。電話をかけると相談員や 看護師・医師が症状を聞き、緊急性があるかどうか、すぐ受診すべきかを判断して助言してくれます。
⚠️ ♯7119はまだ全国のすべての地域で実施されているわけではありません(消防庁が全国展開を 進めている段階です)。対象年齢や受付時間も地域によって違います。お住まいの地域が実施しているか、 番号と時間はどうかを、消防庁のページで今のうちに調べて電話のそばに書いておいてください。 困ってから調べるものではありません。
あわせて、冷蔵庫の扉やベッドのそばにかかりつけ医、飲んでいる薬、緊急連絡先を書いた紙を 貼っておいてください。救急隊やヘルパーの方が最初に目にする場所です。パーキンソン病の薬は 時間どおりに続けることが大事なので、搬送されたときに薬の情報がすぐ伝わることには意味があります。 なお、こうした情報を専用の容器に入れて冷蔵庫で保管する取り組み(救急医療情報キットなど)を 行っている市区町村もあります。お住まいの地域にあるかは窓口で聞いてみてください。
将来の決定も前もってしておいてください
体調が変わって自分で決めるのが難しくなるときに備えて、自分に代わって決めてくれる人を前もって 決めておくことも考えてください。任意後見や人生会議(ACP)、遺言といった具体的な手続きは 法的な備えでくわしく取り上げています。
今できること
助けを呼ぶ手段、実際に問い合わせた支援サービス、事情を知っているご近所の方 ひとり——この3つをそろえるだけで、ひとりで暮らす不安はかなり軽くなります。どこから 始めればよいかわからないときは、お住まいの地域の地域包括支援センターか、通院先の 医療ソーシャルワーカーに相談してみてください。
この記事は、医学的な診断や治療の代わりになるものではありません。緊急時の備えが心配なときは、 主治医や、お住まいの地域の地域包括支援センター・医療ソーシャルワーカーにご相談ください。


