パーキンソン病と診断されたからといって、すぐに仕事をやめなければならないわけではありません。 初期は症状が仕事にそれほど支障を与えないことが多く、65歳以下で診断された88人を追った調査では 5年後も40%が働き続けていました(10年後は14%)。仕事を離れるまでの期間の中央値は 7年でした。7年は短くありません。その間に何を用意しておくかで、働き続けられる 長さは実際に変わります。
伝える時期はご自身で決められます
診断を職場に伝える法律上の義務はありません。ご自身の情報です。
とはいえ、伝える時期には結果がついてきます。症状が仕事の成果に出てしまってから伝えると、 「診断のこと」と「成果が落ちたこと」を同時に説明することになり、なぜ配慮が必要なのかを 伝えるのがずっと難しくなります。問題が目に見えるようになる前、自分の準備が整った時点で 先に伝えるほうがよい——これが専門家のおおむね共通した助言です。
どこまで話すかも自分で決められます。病気のすべてを説明する必要はなく、 仕事に影響する部分を、必要なだけ伝えれば足ります。もっと知りたいと言われたら、 自分が説明役を引き受けるかわりに、信頼できる団体のサイトを紹介すればよいのです。
配慮を求める法的な根拠があります

障害者雇用促進法は、雇用の分野での障害者に対する差別を禁止し(第34〜35条)、事業主に 合理的配慮の提供を義務づけています(第36条の2〜36条の4)。2016年4月から施行されて いる規定です。
- 差別の禁止 — 募集・採用で均等な機会を与えなければならず、賃金・教育訓練・福利厚生 その他の待遇について、障害があることを理由に不当な差別的取扱いをしてはなりません。
- 合理的配慮 — 障害のある労働者が能力を発揮するうえで支障となっている事情を改善する ため、事業主は障害の特性に配慮した施設の整備や援助者の配置などの必要な措置を講じなければ なりません。ただし事業主に「過重な負担」を及ぼす場合はこの限りではありません。
もうひとつ、新しい動きがあります。労働施策総合推進法の改正により、職場における 治療と仕事の両立支援の取組が事業主の努力義務になります。これに合わせて2026年2月10日、 厚生労働省は「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)を公表しました。 会社に相談するとき、こうした国の指針があることを知っておくだけでも、話の切り出し方が変わります。
具体的にどんな配慮を頼めるか
実際に役に立ったと報告されている調整には、こうしたものがあります。
- 体に合った机と椅子、入力機器の見直し(マウスの代わりにトラックボールなど)
- 音声入力ソフト — 字を書くこと、キーボードを打つことが難しくなってきたとき
- 拡声器 — 声が小さくなってきたとき
- 社内の移動に杖・歩行器・電動カートを使う許可
- 時差出勤、時短勤務、在宅勤務
- 中断の少ない静かな作業場所、指示を口頭ではなく書面でもらうこと、記憶の補助になる道具
- 決まった休憩を勤務時間に組み込むこと
パーキンソン病ならではの点をひとつ加えます。服薬の時間です。薬の効き目に波がある方に とって、服薬が数十分ずれるだけで動きやすさは大きく変わります。「決まった時刻に薬を飲む数分を 確保したい」「調子のよい時間帯に会議や外出を寄せたい」というのは、費用のかからない、 きわめて具体的な配慮の求め方です。
具体的に頼んでください。「最近つらくなってきた」という一般的な話より、 どの調整を、それがあれば何ができるようになるのかを名指しした依頼のほうが、はるかに 通りやすくなります。上に挙げたものの多くは、会社にほとんど費用がかかりません——勤務時間の 変更、書面での指示、ヘッドセット、別のマウス。
主治医と会社をつなぐ「様式例」があります
自分ひとりで説明しようとしなくて大丈夫です。厚生労働省は、治療と仕事の両立支援のために そのまま使える様式例を無料で公開しています。
- 勤務情報を主治医に提供する際の様式例 — 自分の仕事の内容や働き方を主治医に伝える ための書式です。主治医は勤務の実態を知らないので、これがあると意見が具体的になります。
- 治療の状況や就業継続の可否等について主治医の意見を求める際の様式例
- 職場復帰の可否等について主治医の意見を求める際の様式例
- 両立支援プラン/職場復帰支援プランの作成例
「治療と仕事の両立支援ナビ」(chiryoutoshigoto.mhlw.go.jp) からWordファイルでダウンロードできます。労働者向けハンドブックもあり、社内の制度や 使える支援制度がまとめられています。企業と医療機関の連携マニュアルには難病の事例編も 用意されています。
ハローワークに難病の相談窓口があります
ここは日本で最も知られていない、そしてもっとも使える窓口かもしれません。
難病患者就職サポーターが、ハローワークの障害者の専門援助窓口に配置されています。 難病相談支援センター都道府県・指定都市ごとに置かれている、難病の患者さんとご家族のための相談窓口です。療養生活の相談から就労相談までを扱います。詳しく見ると連携しながら、症状の特性を踏まえた就労支援を行います。 そして重要なのは、これから就職する方だけが対象ではないことです——厚生労働省は 「在職中に難病を発症した患者の雇用継続等の総合的な就労支援」もこのサポーターの 役割として明記しています。いま働いている職場を続けるための相談ができるということです。
配置されているハローワークは限られているので、お住まいの地域のどこにいるかは厚生労働省の 一覧かハローワークで確認してください(相談が予約制のところもあります)。
このほかに、次のような支援もあります。
- ジョブコーチ(職場適応援助者)支援 — 職場適応をしやすくするため、職場にジョブコーチが 派遣されます。
- 障害者就業・生活支援センター — 就業面と生活面の相談・支援を一体で行う地域の窓口です。
- 産業保健総合支援センター47都道府県すべてに設置されている、事業者と労働者の産業保健を支援する機関です。治療と仕事の両立支援についての相談窓口を設けています。詳しく見る — 治療と仕事の両立について、事業者にも労働者にも相談窓口を 設けています。会社の担当者が「どこまでが妥当な配慮か」に迷っているときの相談先にもなります。
障害者手帳と障害者雇用について
従業員が一定数以上の事業主には、法定雇用率以上の割合で障害のある方を雇用する義務が あります。民間企業の法定雇用率は2.7%で、従業員を37.5人以上雇用している事業主は 1人以上雇用しなければなりません。
パーキンソン病で身体障害者手帳などの対象になるかは、症状の程度によります。該当するか どうか、どう申請するかは主治医と、お住まいの市区町村の障害福祉の担当窓口にご確認ください。 判定のしかたや申請の流れは 身体障害者手帳の記事に、働けなくなった ときの所得の支えは障害年金の記事にまとめています。
⚠️ 手帳がないと何も使えない、ということではありません。厚生労働省は、ハローワークや 地域障害者職業センターなどによる支援の対象を「心身の障害があるために長期にわたり職業生活に 相当の制限を受け、又は職業生活を営むことが著しく困難な方」としています。手帳の有無だけで あきらめず、まず窓口で聞いてみてください。
休職と傷病手当金
休職の制度は会社ごとの就業規則で決まるので、まず人事・総務にどんな制度があるかを確認するのが 第一歩です。
そのうえで、健康保険の傷病手当金健康保険から支給される、病気やけがで働けない間の所得保障です。支給期間は支給を開始した日から通算して1年6か月です。詳しく見るを知っておいてください。業務外の病気やケガの 療養のために仕事を休み、事業主から十分な報酬が受けられないときに支給される制度です。 パーキンソン病のように仕事とは関係なく起こる病気は、労災保険ではなくこちらの対象になります。
- 要件 — 業務外の病気・ケガの療養のための休業であること、仕事に就くことができないこと、 連続する3日間(待期)を含み4日以上仕事に就けなかったこと、その期間に給与の支払いがないこと (給与が傷病手当金より少ないときは差額が支給されます)。
- 期間 — 支給を開始した日から通算して1年6か月です。「通算して」なので、途中で 働いた期間があっても、その分は繰り越されます。
- 金額 — おおよそ、支給開始日以前12か月の標準報酬月額健康保険料や給付額を計算するために、給与を一定の幅で区切って当てはめた金額です。実際の給与額そのものではありません。詳しく見るの平均を30で割った額の 3分の2が1日あたりの額です。
手続きや加入している健康保険組合ごとの扱いは違うので、ご加入の健康保険(協会けんぽの支部や 健康保険組合)と勤務先の担当者にご確認ください。
まとまった休職までいかなくても、小さな変更が思った以上に効くことがあります——調子のよい 時間帯に勤務を寄せる、通勤の混雑を避けるために始業と終業をずらす、といったことです。
どこで相談できますか
- ハローワークの難病患者就職サポーター — 在職中の雇用継続の相談もできます。
- 難病相談支援センター — 都道府県などが設置している難病の総合相談窓口です。
- 産業保健総合支援センター — 治療と仕事の両立の相談窓口です。
- 通院先の医療ソーシャルワーカー — 何が使えるかを最初に整理してもらう相手として 適しています。
- 勤務先に産業医がいる場合は、主治医と会社をつなぐ役割を担ってもらえます。
パーキンソン病で使える医療費の助成については 難病医療費助成制度の記事にまとめています。
今できること
いまの仕事がまだ無理なくこなせているなら、急ぐ必要はありません。ただ、いつ・誰に・ どこまで伝えるかを前もって考えておくこと、上に挙げた配慮と窓口を知っておくこと—— この2つをしておけば、症状が進んだときにも「突然」にはなりません。
この記事は、医学的な診断や法律の専門的な助言に代わるものではありません。制度が実際にどう 適用されるかは、ハローワーク、労働局、ご加入の健康保険、社会保険労務士など、それぞれの 窓口でご確認ください。


