パーキンソン病の症状が重くなって仕事を休むことになったとき、まず気になるのは 「その間、生活費はどうなるのか」です。会社員であれば、健康保険から 傷病手当金健康保険から支給される、病気やけがで働けない間の所得保障です。支給期間は支給を開始した日から通算して1年6か月です。詳しく見るという所得保障が出ます。

ただし、この制度には見落とされがちな前提があります。誰でも使えるわけではありません。 以下は2026年8月時点で、全国健康保険協会(協会けんぽ)と厚生労働省の公式資料を 実際に確認して整理したものです。

まず確認すること — お勤め先の健康保険は「協会けんぽ・健康保険組合」ですか

傷病手当金は健康保険法にもとづく制度です。会社員が入る協会けんぽ・健康保険組合には あります。しかし、自営業・フリーランス・農業従事者などが入る国民健康保険には、 原則としてありません。

国民健康保険法第58条第2項は、傷病手当金を市区町村の条例による任意給付と定めています。 「必ず給付する」とは法律上決まっておらず、実際に実施している市区町村はごくわずかです (新型コロナウイルス感染症に感染した被用者への特例支給を除く)。

「会社員時代の同僚から傷病手当金の話を聞いたので自分も」と思っても、自営業やフリーランスに転じたあとであれば対象外の可能性が高いです。逆に、退職・転職を考えている方は、休職が視野に入っている間は在職中に手続きを進めておく方が安全です(下の「退職後も続けて受け取れる場合」も参照)。

4つの支給要件

協会けんぽが示している要件は次の4つです。この4つすべてを満たす場合にのみ支給されます。

待期の3日間には、有給休暇・土日祝日等の公休日も含まれます。連続していることが条件なので、 「2日休んで3日目に出勤し、4日目からまた休んだ」場合は待期が成立しません。

給与が一部でも支払われている場合、その間は支給されません。ただし、給与が傷病手当金の額より 少ないときは、その差額が支給されます。

支給額はいくらになるか

1日あたりの支給額は、次の式で計算されます。

支給開始日以前12か月間の標準報酬月額健康保険料や給付額を計算するために、給与を一定の幅で区切って当てはめた金額です。実際の給与額そのものではありません。詳しく見るを平均した額 ÷ 30 × 3分の2

標準報酬月額の平均1日あたりの支給額(目安)
20万円約4,444円
26万円約5,778円
34万円約7,556円
標準報酬月額は実際の給与そのものではありません。ご自分の標準報酬月額は、毎年の定時決定(算定基礎届)の結果として、給与明細や健康保険組合からの通知で確認できます。正確な金額は、ご加入の健康保険にお問い合わせください。

支給期間 — 2022年の改正で「通算」になりました

支給期間は、支給を開始した日から通算して1年6か月です。ここは、パーキンソン病のように 症状が波のように変わる病気にとって、実は大きな意味を持つ改正がありました。

改正前は、復職した期間も1年6か月のカウントに含まれていました

厚生労働省の図解資料は、改正前と改正後の違いをこう説明しています。

【改正前】支給開始日から起算して1年6か月を超えない期間。この間に出勤(不支給)の期間が あっても、その期間も1年6か月の計算に含まれていた。

【改正後】支給開始日から通算して1年6か月に達する日まで。支給期間中に途中で就労するなど 傷病手当金が支給されない期間がある場合は、その分を除いて繰り越して支給できる。

つまり改正前は、いったん症状が落ち着いて復職しても、その復職していた期間もカレンダー通りに 1年6か月のカウントが進んでいました。いったん働けても、その後また働けなくなったときに 使える残り期間が目減りしていたということです。

改正後(令和4年〈2022年〉1月1日から)は、出勤して傷病手当金を受け取らなかった日は カウントされず、実際に支給を受けた日数だけが通算されて1年6か月に達するまで支給されます。 この改正は、令和2年7月2日以降に支給が開始された傷病手当金に適用されます。

服薬の調整やオン・オフの波で「今は動けるが、また悪くなるかもしれない」という状態を繰り返しやすい方にとって、この改正は実利があります。一度復職しても、その後の再休職に備えて使える期間が減らないという意味だからです。ご自分の傷病手当金がいつ支給開始になったかは、健康保険組合・協会けんぽの支部で確認できます。

障害年金を受けることになったら — 併給調整

パーキンソン病は進行する病気なので、休職が長引くうちに障害年金の申請を検討する方もいます。ここで、傷病手当金との間に調整が入ります。

健康保険法は、同一の傷病について障害厚生年金を受けられるようになったときは、傷病手当金は 支給しないと定めています(第108条)。この取扱いは、実際に障害厚生年金の支給を受けている場合に 限られます(決定は受けたが他の年金との調整で支給停止中の場合は含みません)。

ただし、全額打ち切りではありません。

状況どうなるか
障害厚生年金の額(障害基礎年金も受けられるときはその合計額)の360分の1が、傷病手当金の日額より低いときその差額が傷病手当金として支給される
障害厚生年金の額の360分の1が、傷病手当金の日額以上のとき傷病手当金は支給されない
障害基礎年金だけを受けられるとき(障害厚生年金ではない)この調整は行われず、両方とも受け取れる

最後の行が重要です。障害年金の記事で扱っているとおり、 障害基礎年金と障害厚生年金のどちらが出るかは初診日にどの年金に加入していたかで決まります。 初診日に自営業などで国民年金だけに加入していた方は障害基礎年金の対象で、この調整の対象外です (ただしそもそも国民健康保険には傷病手当金がないため、この場面自体が起こりにくくなります)。 初診日に会社員として厚生年金に加入していた方は障害厚生年金の対象になり得るため、この調整が 関わってきます。

障害厚生年金の裁定を申請しただけでは調整は始まりません。実際に支給が決まった時点からです。すでに傷病手当金を受け取っている状態で障害厚生年金の支給が決まったときは、二重取りにならないよう調整が行われるとご理解ください。具体的な金額の計算は、ご加入の健康保険にご確認ください。

退職後も続けて受け取れる場合があります

退職すると健康保険の資格を失いますが、次の条件を満たせば資格喪失後も引き続き傷病手当金を 受け取れます。

この継続給付には落とし穴があります。いったん働ける状態になったあと、その後さらに働けない状態になっても、傷病手当金は支給されません。「治って復職したが、また悪化した」場合、この継続給付の枠では救済されないということです。また、退職後に任意継続被保険者として健康保険に加入し続けている期間中に新たに発生した病気・ケガについては、そもそも傷病手当金の対象になりません(在職中から続いている傷病の継続給付とは別です)。退職を検討する時期は、主治医・お勤め先の担当者・健康保険の窓口と早めに相談してください。

申請の流れ

クリップボードの保険申請書類にペンを添えて確認する手元
1
主治医に「療養担当者記入用」欄を書いてもらう
申請書には、労務不能であったことについて療養担当者(主治医)の意見を記入してもらう欄があります。仕事の内容を踏まえた診断が必要になるため、お勤め先の仕事内容を医師に伝えておくと記入がスムーズです。
2
会社に「事業主記入用」欄を記入してもらう
出勤状況・給与の支払い状況を会社側に記入してもらいます。人事・総務の担当者に申請書を渡し、記入を依頼してください。
3
ご加入の健康保険に提出する
協会けんぽの支部、または健康保険組合の窓口に申請書一式を提出します。郵送でも受け付けています。
4
審査を経て支給される
休業が続く場合は、通常1か月ごとなど区切って申請します。1回申請すれば以後自動的に支給が続くわけではありません。
1回の申請でその後もずっと支給されるわけではありません。休業が長引く場合は、区切りごとに繰り返し申請する必要があります。申請を忘れた期間があると、その期間分は原則として遡って請求することになるため、休業中は申請の周期を家族と共有しておくと抜け漏れを防げます。

こんなときは

状況どうするか
自営業・フリーランスです国民健康保険には傷病手当金が原則ありません。お住まいの市区町村が任意給付を実施しているかどうか、国民健康保険の窓口に確認してください
いったん復職して、また休むことになりました2022年1月以降に支給が開始された傷病手当金であれば、復職していた期間は通算のカウントに含まれません。残りの支給期間について、ご加入の健康保険に確認してください
障害厚生年金の申請を検討しています支給が決まると傷病手当金と調整が入ります。差額支給があるかどうかは金額次第です。年金事務所と健康保険の両方に相談してください
障害基礎年金だけを受けています(初診日に国民年金加入)併給調整は行われません。両方を受け取れます
退職を考えています被保険者期間が継続して1年以上あり、退職日に傷病手当金を受けているか受けられる状態であれば、資格喪失後も継続して受け取れます。ただし退職前に一度でも働ける状態に戻っていた場合はこの継続給付の対象外です
退職後、任意継続被保険者会社を退職したあとも、それまで加入していた健康保険に最長2年間個人で加入し続けられる制度です。保険料は全額自己負担になります。詳しく見るになっています在職中から続く傷病の継続給付は別として、任意継続の期間中に新しく発生した病気・ケガには傷病手当金は出ません
待期の3日間の数え方がわかりません有給休暇・土日祝日も含めて連続3日間休んだかどうかで数えます。途中に1日でも出勤があると待期は成立しません

患者さんとご家族へ

この制度で最初に確認すべきは、金額の計算より前に「自分はそもそも対象なのか」です。 会社員の方には当然にある制度が、自営業・フリーランスの方にはないという前提のずれが、 一番の思い違いのもとになります。

そのうえで、症状の波によって復職と休職を繰り返す可能性がある方は、2022年の改正で 以前より不利にならなくなったことを知っておいてください。そして障害年金の申請を 考えている方は、傷病手当金との調整があることを、申請前に主治医・年金事務所・健康保険の 三者で確認しておくと、あとで想定外の減額に驚かずに済みます。

このページは法律相談や行政の決定に代わるものではありません。記載した制度・金額は2026年8月時点で 全国健康保険協会および厚生労働省の公式資料で確認したものです。制度は改定されますので、 ご自分の申請については、ご加入の健康保険の窓口と主治医にご確認ください。