パーキンソン病の医療費というと、まず難病医療費助成制度が 思い浮かびます。ただ、あの制度が助けてくれるのはパーキンソン病の医療だけです。転んで大腿骨を 折って入院したとき、誤嚥性肺炎食べ物や唾液が食道ではなく気道に入ってしまうことで起こる肺炎です。飲み込む力が弱くなると危険が高まることのある合併症です。詳しく見るで入院したとき、白内障の手術を受けたとき — こうした医療費は 難病医療費助成では受け止められません。重症度分類に届かず助成そのものを受けられていない方は、 なおさらです。

そこを受け止めるのが高額療養費制度です。公的医療保険に入っている方なら誰でも使えて、 病名を問いません。そして令和8年(2026年)8月診療分から、この制度の中身が変わりました。

以下は2026年8月時点で、厚生労働省の資料と全国健康保険協会(協会けんぽ)の公式ページを 実際に確認して整理したものです。金額は改定されますので、お読みになっている時期とこの日付を 見比べてください。

まず、どういう制度か

ひと月に医療機関の窓口で払った自己負担額が一定の上限を超えたとき、超えた分が戻ってくる 制度です。上限額は年齢と所得によって決まります。

押さえておきたい前提が3つあります。

前提中身
数える単位同じ月の1日から末日まで。月をまたぐと別々に計算されます
対象になる費用公的医療保険が使われた医療費の自己負担分だけ
対象にならない費用入院時の食事代、差額ベッド代、先進医療の技術料、文書料などの保険外の費用
「数える単位は月」というのは、実際に効いてきます。たとえば10月25日から11月10日まで入院した場合、10月分と11月分は別々に計算されます。同じ入院なのに、どちらの月も上限額に届かず高額療養費が出ない、ということが起こり得ます。予定して入れる手術や検査入院なら、月の初めのほうに入院日を置けるか主治医に相談してみる価値はあります。

2026年8月から、何が変わったのか

厚生労働省は今回の見直しをこう説明しています。

高額療養費のセーフティネット機能に鑑み、長期療養者や低所得者の経済的負担の在り方に配慮しつつ、 制度を将来にわたって堅持していくための見直しを行う。

変わったところは大きく3つです。

  1. 月ごとの上限額が引き上げられた
  2. 多数回該当1年(直近12か月)のうちに高額療養費の支給を受けた月が3回以上あったとき、4回目からは上限額がさらに下がる仕組みです。長く治療を続ける方の負担を軽くするためのものです。詳しく見るの金額は据え置かれた — 長く治療を続けている方の負担を増やさないため
  3. 新しく「年間上限」ができた — 多数回該当に届かない長期療養者のため

パーキンソン病のように何年も付き合っていく病気の場合、2と3が効いてきます。順番に見ていきます。

新しくできた「年間上限」

これが今回の見直しでいちばん大きい変更です。厚生労働省の説明はこうです。

月ごとの自己負担額が積み上がっても、年間の上限額に達した後は、それ以上の医療費の支払いは 不要となります。

これまでの高額療養費は月単位でしか頭打ちにならない制度でした。ですから、毎月7万円台の 自己負担が1年続くような方 — 上限額(たとえば8万100円+1%)にはあと少しで届かず、 高額療養費が出ないので多数回該当にもならない方 — は、1年で90万円近くを払っても何の 軽減も受けられませんでした。

年間上限月ごとの上限額とは別に、1年間(8月から翌年7月まで)の自己負担の合計額に設けられた上限です。令和8年8月から新設されました。上限に達したあとは、その年はそれ以上払わなくてよくなります。詳しく見るは、そこに線を引くための仕組みです。

項目内容
数える期間毎年8月から翌年7月までの12か月
何が起きるか期間中の自己負担の合計が上限に達したら、その年はそれ以上の負担が不要になります
受け取り方保険者(ご加入の健康保険)から還付されます

厚生労働省が挙げている例です。これまで多数回該当にならなかった方が、見直し後は 年間で約23万7千円負担が軽くなる、という試算が示されています。

ご自分が年間上限に達しているかどうかを、ご自身で計算して申し出る必要は原則としてありません。ただし受け取り方や手続きは、加入している健康保険によって案内が異なります。協会けんぽ・健康保険組合・共済組合・国民健康保険・後期高齢者医療で窓口が違いますので、「年間上限に届きそうだ」と思ったら一度ご自分の保険者に確認しておくと確実です。

令和8年8月からの上限額(70歳未満)

厚生労働省が公表している表です。標準報酬月額健康保険で保険料や給付額を計算するときの基準になる金額です。毎年4月から6月の給与の平均をもとに決められ、保険証や給与明細では分からないことが多いので、勤め先か健康保険にご確認ください。詳しく見るは 会社員の方(協会けんぽ・健康保険組合)、旧ただし書き所得国民健康保険の保険料を計算するときの基準になる所得です。総所得金額等から住民税の基礎控除額を差し引いた額で、給与収入そのものとは違います。市区町村の国保の窓口で確認できます。詳しく見るは 国民健康保険の方が見る欄です。

年収の目安健保(標準報酬月額)月単位の上限額多数回該当年単位の上限額
約1,160万円〜83万円以上270,300円+(医療費−901,000円)×1%140,100円1,680,000円
約770万〜約1,160万円53万〜79万円179,100円+(医療費−597,000円)×1%93,000円1,110,000円
約370万〜約770万円28万〜50万円85,800円+(医療費−286,000円)×1%44,400円530,000円
〜約370万円26万円以下61,500円44,400円530,000円
住民税非課税36,900円24,600円290,000円

見直し前と比べると、こうなります。

年収の目安見直し前の月額上限令和8年8月からの月額上限
約1,160万円〜252,600円+1%270,300円+1%
約770万〜約1,160万円167,400円+1%179,100円+1%
約370万〜約770万円80,100円+1%85,800円+1%
〜約370万円57,600円61,500円
住民税非課税35,400円36,900円

多数回該当の金額(上の表の44,400円・24,600円など)は見直し前と同じ額に据え置かれています。 年に4回以上高額療養費に該当する方の負担は、今回は増えていません。

年収が約200万円までの方(健保の標準報酬月額15万円以下、国保の旧ただし書き所得86万円以下)で、その区分に該当することが確認できた場合は、年間上限が41万円になります。ただしこの分の払い戻し(償還払い)は令和9年8月以降です。低い年金収入で暮らしていらっしゃる方はここに当たる可能性がありますので、ご自分の保険者に確認してみてください。

令和8年8月からの上限額(70歳以上)

70歳以上の方には、外来だけを個人ごとに見る外来特例70歳以上の方について、外来の自己負担だけを個人単位で先に頭打ちにする仕組みです。世帯単位の上限額とは別に、外来分にだけ低い上限が設けられています。詳しく見るがあります。

年収の目安外来(個人ごと)の上限額世帯単位の月額上限多数回該当年単位の上限額
〜約370万円22,000円(年間上限216,000円)61,500円44,400円530,000円
住民税非課税11,000円(年間上限96,000円)25,700円24,600円290,000円
住民税非課税(所得が一定以下)8,000円15,700円180,000円

年収が約370万円を超える方は、70歳未満と同じ上限額(85,800円+1%など)が適用されます。

外来特例の額は、〜約370万円の区分で18,000円から22,000円へ、住民税非課税の区分で8,000円から 11,000円へ引き上げられました。ただし住民税非課税の区分には新たに年間上限(96,000円)が 導入され、毎月上限額まで使う方の年間の負担は見直し前より増えないように設計されています。 所得が一定以下の区分の8,000円は据え置きです。

多数回該当 — 4回目から下がります

同じ人が何度も高額療養費を受けるときの仕組みです。

高額療養費として払い戻しを受けた月数が1年間(直近12ヵ月間)で3月以上あったときは、 4月目から自己負担限度額がさらに引き下げられます。

数え方は直近12か月で、暦年(1月〜12月)ではありません。年収約370万〜約770万円の方なら、 1〜3回目は85,800円+1%、4回目からは44,400円になります。

多数回該当は転居や転職で保険者が変わるとリセットされることがあります。会社を辞めて国民健康保険に 移ったときなどは、回数がどう扱われるか新しい保険者に確認してください。

世帯合算 — ひとりで届かなくても、家族と合わせて届くことがあります

ひとりの窓口負担では上限額に届かなくても、同じ医療保険の世帯同じ公的医療保険に加入している家族の単位です。住民票上の世帯が同じでも、それぞれ別の健康保険に入っていると合算できません。ご夫婦で会社の健康保険と国民健康保険に分かれている場合などが該当します。詳しく見るの中で 合算して上限額を超えれば、高額療養費の対象になります。

年齢合算のルール
70歳未満一つの医療機関ごとの自己負担額が21,000円以上のものだけを合算します
70歳以上自己負担額をすべて合算できます

70歳未満の21,000円というのは見落としやすいところです。同じ月に3か所の医療機関にかかっても、 それぞれが2万円に届かなければ合算されません。同じ医療機関でも医科と歯科は別に数え、入院と外来も 別に数えます。

合算できるのは同じ公的医療保険に加入している方どうしです。同居していても、ご主人が会社の 健康保険、奥様が国民健康保険という場合は合算できません。

窓口で先に上限額までにする方法

高額療養費は本来「いったん払って、あとから戻ってくる」制度です。ただし、いったん3割を全額 立て替えるのは大きな負担です。それを避ける方法が2つ — マイナ保険証限度額適用認定証窓口での支払いを最初から自己負担限度額までにするために、あらかじめ保険者に交付を申請する証明書です。マイナ保険証を使う場合は申請不要です。詳しく見る — あります。

1
マイナ保険証を使う(申請不要)
マイナンバーカードを健康保険証として利用登録し、オンライン資格確認を導入している医療機関で使えば、限度額適用認定証の申請をしなくても、窓口での支払いが上限額までになります。協会けんぽは「マイナ保険証をご利用いただく場合、申請は不要です」と案内しています。
2
限度額適用認定証を申請する
オンライン資格確認を導入していない医療機関にかかる場合や、保険者にマイナンバーの登録をしていない場合は、あらかじめ「限度額適用認定証」の交付を申請します。医療機関に支払う前に手元にある必要がありますので、入院や高額な検査が決まったらすぐ申請してください。
3
間に合わなければ、あとから請求する
どちらも間に合わずに全額を払った場合でも、あとから高額療養費の支給申請ができます。申請できる期間は診療した月の翌月1日から2年です。領収書は必ず保管しておいてください。

パーキンソン病の方は、脳深部刺激療法(DBS)脳の深いところに電極を入れて電気で刺激する手術です。薬の効果の変動が大きくなったときに検討される治療で、入院と手術の費用がまとまってかかります。詳しく見るの入院や、転倒による骨折の入院など、まとまった医療費が急に発生することがあります。

入院が決まってから認定証が届くまでには日数がかかります。入院や手術の予定が決まった日が、申請する日だと思ってください。

難病医療費助成を受けている方は、どちらが先に効くのか

ここは混乱しやすいところです。指定難病の医療費助成は公的医療保険が優先する制度です。 つまり、こういう順番になります。

1
① まず公的医療保険(3割・2割・1割の窓口負担)
ふつうに保険が使われます。
2
② 次に高額療養費
ひと月の自己負担が所得区分ごとの上限額を超えた分は、高額療養費で処理されます。
3
③ 最後に難病医療費助成
そこでもなお残る自己負担に対して、指定難病の医療費助成が所得区分ごとの上限額(月額0円〜30,000円)を適用します。患者さんが実際に払うのはこの額です。

ですから受給者証をお持ちの方は、パーキンソン病の医療については難病医療費助成の上限額まで しか払っていません。高額療養費のことを意識する場面は、それ以外の医療です。

  • パーキンソン病以外の病気・けがの医療費(骨折、肺炎、白内障、歯科など)
  • 難病医療費助成の対象にならなかった方(重症度分類にも軽症高額該当重症度分類には届かないけれど高額な医療を続ける必要がある方のための入口です。医療費総額(10割)が33,330円を超える月が、申請月以前の12か月以内に3回以上あれば対象になります。詳しく見るにも当てはまらなかった場合)の医療費すべて
  • 指定医療機関以外にかかったときの医療費
難病医療費助成の軽症高額該当(医療費総額の10割が33,330円を超える月が12か月以内に3回以上)は、高額療養費とはまったく別の計算です。高額療養費に該当していなくても軽症高額該当にはなり得ますし、その逆もあります。片方で「対象外」と言われても、もう片方をあきらめる理由にはなりません。

介護保険も使っている方へ — 合算する制度があります

医療保険と介護保険の両方を1年間(8月から翌年7月まで)で使い、自己負担の合計が高くなったときは、 高額医療・高額介護合算療養費1年間(8月〜翌年7月)の医療保険と介護保険の自己負担を合算し、限度額を超えた分が支給される制度です。医療保険と介護保険のどちらの窓口にも申請が必要になることがあります。詳しく見るで 超えた分が支給されます。介護保険の記事でくわしく扱っています。 → 介護保険制度のしくみをくわしく

医療も介護もどちらも使っているご家庭では、ここを申請していないケースがよくあります。 申請しないと戻りません。

令和9年8月からは、もう一段階変わります

今回の見直しは2段階で行われます。令和9年(2027年)8月からは、所得区分がさらに細かく 分かれます。70歳未満の区分は現在の5区分から11区分になり、年収の目安ごとに上限額が変わります。

このとき、年収が約200万円までの区分(標準報酬月額15万円以下)には次の額が設定されます。

項目令和9年8月から
月単位の上限額61,500円
多数回該当34,500円(それまでの44,400円から引き下げ)
年単位の上限額410,000円

住民税非課税ラインを少し上回る年収の方の多数回該当が下がる、というのが2段階目の柱の一つです。 年金収入で暮らしていらっしゃる方はここに当たることがあります。2027年8月が来たら、ご自分の 区分をもう一度確認してください。

申請するとき

  • 申請先はご加入の健康保険です。会社員なら協会けんぽの都道府県支部か健康保険組合、 自営業・無職の方なら市区町村の国民健康保険、75歳以上なら後期高齢者医療広域連合になります。
  • 国民健康保険や後期高齢者医療では、該当した方に市区町村からお知らせが届くことがあります。 届いたら放置せず手続きしてください。
  • 支払いまでには診療月から3か月以上かかるのが通常です。すぐには戻ってきません。
  • 時効は診療した月の翌月1日から2年です。2年以内なら、過去の分もさかのぼって請求できます。

こんなときは

状況どうするか
難病医療費助成を受けているので関係ないと思っています助成が効くのはパーキンソン病の医療だけです。骨折・肺炎・白内障・歯科などは高額療養費が受け止めます
重症度分類に届かず、難病医療費助成が受けられませんでした高額療養費は病名も重症度も問いません。ひと月の自己負担が上限額を超えれば対象です。あわせて軽症高額該当も別途ご確認ください
入院が決まりましたすぐにマイナ保険証が使えるか医療機関に確認し、使えなければ限度額適用認定証を申請してください。窓口で払う前に手元にある必要があります
月をまたいで入院しました上限額は月ごとに計算されます。同じ入院でも2か月に分かれると、それぞれの月が上限に届かないことがあります
家族も通院しています同じ健康保険に入っているご家族なら世帯合算ができます。70歳未満は一つの医療機関で21,000円以上のものだけが合算対象です
毎月それなりに払っているのに、一度も戻ってきたことがありません令和8年8月から年間上限ができました。月の上限に届かない方が対象になる仕組みです。ご加入の健康保険にご確認ください
2年前の入院の分を申請していません時効は診療した月の翌月1日から2年です。まだ間に合う月があるかもしれません
介護サービスも使っています高額医療・高額介護合算療養費があります。申請しないと戻りません

患者さんとご家族へ

この制度でいちばん多い取りこぼしは、「自分は難病医療費助成があるから関係ない」と思って しまうことです。パーキンソン病と長く付き合っていると、転倒による骨折、誤嚥性肺炎、 歯科の治療 — 病気そのものとは別の医療費が必ず出てきます。そこは難病医療費助成では受け止め きれません。

そして今回の見直しで、毎月の上限額には届かないけれど1年を通して払い続けているという いちばん報われにくかった形に、初めて年間上限という線が引かれました。8月から翌年7月までが 1年の区切りです。領収書を月ごとにまとめて残しておくと、ご自分がどのあたりにいるのかが 見えるようになります。

このページは行政の決定に代わるものではありません。記載した金額・基準は2026年8月時点で 厚生労働省および全国健康保険協会の公式資料で確認したものです。制度は改定されますので、 ご自分の適用については、ご加入の健康保険(国民健康保険・後期高齢者医療はお住まいの市区町村)に ご確認ください。