小字症(micrographia)は、パーキンソン病で字が小さくなる症状です。初期の患者さんの 最大で半分が経験するほどよくあることで、運動症状がはっきりしてくる前に、いちばん先に 目につくサインである場合もあります。ただ以前より小さく書くというだけでなく、特徴として 一行を書きはじめるときはふだんと変わらないのに、書き進めるほどどんどん小さくなって いく傾向があります。

なぜ書いているうちに小さくなるのですか
この現象は、脳の大脳基底核の運動の回路が、手の動きの大きさを十分に「大きくして」保つ ことができなくなることと関係があると研究されています。動作緩慢によって手足を動かす幅が だんだん小さくなっていくのと同じ仕組みが、指先の細かい動きにもそのまま現れていると 考えることができます。興味深いのは、このようにだんだん小さくなるタイプの小字症は レボドパのような薬にはあまり反応しないけれど、意識して集中し、大きく書こうと努力すると 実際に改善することがわかっている点です。つまり「気をつけて大きく書こう」という努力 そのものが、根拠のある対処法なのです。
道具を変えてみてください
- 太くて手になじむペンを使ってみてください。 ゴムのグリップがついているものや、 もとより太いペンのほうが握りやすくなります。
- 重みのあるペンも役に立つことがあります。 手のふるえがあるなら、少し重さのある ペンのほうが揺れを抑えてくれます。
- 罫線の引かれた紙を使ってください。 罫線のない紙より、罫線のあるノートに書いた ほうが字の大きさが保たれやすいと研究されています — 罫線という目で見えるめじるしが、 大きさの調節を助けてくれます。
- 紙の下に滑り止めのマットを敷いてみてください。 紙が動かないほうが、手の動きが より正確になります。
書きながら、ときどき休んでください
一度に長く書き続けるのではなく、少し書いて、少し休んで、また書く(「書く-休む-書く」) やりかたに分けると、あとになるほど字が小さくなるのを抑えられます。できれば 薬がよく効いている時間帯に大事な書きものをするのも役に立ちます。
署名が必要な書類のことも考えておいてください
小字症のために、時間がたつと署名の形が目に見えて変わることがあり、銀行や法律の書類の ように署名の確認が大切なところで問題になることがあります。署名が以前と大きく変わって きたと感じたら、必要なところにあらかじめ伝えておくか、届け出の印鑑や署名を新しくして おくと、あとで困ることが少なくなります。
デジタルの道具で手書きの代わりにすることもできます
手で書くこと自体がつらすぎるときは、タブレットとスタイラスペンで書いたり、話した言葉を 文字に変える音声入力のアプリを使うのも一つの方法です。メモや手紙のように、必ずしも 手書きでなくてもよい場面では、こうしたデジタルの道具が負担を大きく減らしてくれます。
ご家族は代わりに書くよりも、待ってあげてください
そばで見ていてもどかしく、代わりに書き取ってあげたくなるかもしれませんが、時間がかかっても 本人が自分で書くのを待ってあげるほうが、長い目で見ると役に立ちます。字が小さいと 指摘するよりも、「もう少し大きく書いてみましょうか」のように気負わせずにすすめたり、 上で紹介した道具やデジタルの代わりの手段を一緒に探すほうがよいでしょう。
作業療法士と一緒に練習することもできます
首・肩・腕・手のストレッチから始めて、作業療法士が字を書く姿勢とやりかたを見たうえで、 合った練習のしかたを教えてくれます。続けて行う有酸素運動も、小字症をふくむいろいろな 運動症状をやわらげるのに役立つことが知られています。
いまできること
小字症は初期に現れる代表的なサインの一つですが、それ自体が危険なものではありません。 ただ、署名やメモのように暮らしに実際に影響しているなら、上の方法を一つずつ試してみて、 道具を変えても大きく変わらないようなら、作業療法士と一緒に自分に合った方法を探すのが よいでしょう。
この記事は医学的な診断や治療の代わりになるものではありません。字を書くことが大きく 不便になっているときは、作業療法士への相談をお願いしてみてください。


