今回は「いつ始めるか」にまつわる二つのニュースです。一つは、診断されてすぐにリハビリを 始めた方のほうが長く生きられたという大規模な追跡研究です。もう一つは、幻視が実際に現れる 何年も前から脳のなかで変化が始まっていたという研究です。どちらの研究も、「症状が悪くなって から手を打つ」という慣れたやり方を考え直させるものです。

ニュース1

診断後1年以内にリハビリを始めた方のほうが長く生きられました

🔍 こうして出てきました

韓国の全国規模のコホート(パーキンソン病の患者さん19,153人)を最長15年間追跡した研究が、 国際学術誌npj Parkinson’s Diseaseに掲載されました。国民健康保険の診療データを使ったもので、 研究チームはリハビリをいつ始めたかによって三つのグループに分けています — 診断後1年以内 (32.2%)、1~2年のあいだ(13.5%)、2年以上たってから(54.3%)です。

追跡期間中の死亡率をくらべた結果、1年以内に始めたグループがもっとも長く生きていました。 このグループを基準にすると、1~2年後に始めたグループは死亡のリスクが28%高く、2年以上 たってから始めたグループは44%高くなっていました。

もっとも目を引くのは別のところです。この差が機能の低下がはっきりしていた方だけに出たのでは なく、まだ日常生活に支障のなかった方たちにも同じように出ていたという点です。研究チームは、 いまの診療の実際が「機能が悪くなってからリハビリを始める後追いの対応」に近いと指摘したうえで、 リハビリを診断の時点からの基本の治療に組み込むべきだと述べています。

✅ 患者さんへ

診断されてまだ日が浅いと、「まだ歩くのに困っていないから、リハビリは後で」と先延ばしにしたく なります。この研究が指している方向は、ちょうどその反対です — 困る前に始めたほうが結果が よかったのです。次の診察のときに「今からリハビリを始めたほうがよいでしょうか」と一度たずねて みる、それだけで十分です。

この研究は、実際に人を二つのグループに分けて試したものではなく、すでに積み上がっている診療の記録をさかのぼって見た観察研究です。ですから「リハビリが寿命を延ばした」と言い切ることはできません — もともと体の状態がよかった方がリハビリを早く始めていた、という可能性も残っています。ただし、機能の低下がなかった方たちにも同じ差が出ていた点は、その説明だけでは片づけにくいところです。

🙋 ご家族へ

リハビリには「かなり悪くなった人が受けるもの」という印象があるため、初期のうちはすすめても 断られることが少なくありません。この研究は、その受け止め方をひっくり返す根拠になります。

パーキンソン病でいうリハビリは一種類ではなく三つに分かれていて、それぞれ扱う問題が 違います。何から始めるかは、担当医療スタッフと相談して決めていただければ大丈夫です。

種類主に扱うこと
理学療法歩行・バランス・姿勢、転倒の予防、大きな動作で動く練習
作業療法着替え・食事・字を書くといった日常の動作、家のなかの環境の調整
言語聴覚療法声が小さくなること、発音、飲み込み(むせ)の問題

三つを一度に始めなければいけないわけではありません。今いちばん困っていることから一つ始めても よく、この研究の要点は種類をうまく選ぶことよりも始める時期を先延ばしにしないことのほうに あります。

検査室に置かれた円筒形の脳画像撮影装置
ニュース2

幻視が現れる何年も前から、脳ではすでに変化が始まっていました

🔍 こうして出てきました

米国ワシントン大学セントルイス校の研究チームが、パーキンソン病の患者さん95人の脳を PET撮影脳のかたちではなく「どう動いているか」を見る撮影です。見たい対象にだけ結合する物質(トレーサー)にごく弱い放射性の標識をつけて注射し、それが脳のどの部位に集まるかを撮影します。詳しく見るで 長期間観察した研究を、npj Parkinson’s Diseaseに発表しました。研究チームは アセチルコリン脳と神経で信号を伝える物質の一つです。パーキンソン病はドパミン不足として知られていますが、この物質を使う回路も一緒に弱っていき、記憶・注意力・視覚情報の処理・歩行のバランスに関わっています。詳しく見るの 活動を映すトレーサーを使って、視覚の情報を処理する脳の部位(視床・後頭葉・側頭葉など)の活動 を測定しました。

幻視パーキンソン病で現れる幻覚(実際にないものが見えたり聞こえたりすること)と妄想をまとめて呼ぶ言葉です。パーキンソン病の薬が原因になることが多く、認知症やせん妄が原因になることもあります。患者さんの20~30%が幻視を経験すると報告されています。詳しく見るの ある方では、ない方にくらべてこの部位のアセチルコリンの活動がはっきり低く、活動が低い ほど幻視が重くなっていました。そしてもう一つ、決め手になる発見があります — はじめは幻視の なかった方のうち、2~6年後に幻視が現れた方たちでは、症状が出る前からすでにその活動が低く なっていました。

この結果は、年齢・性別・罹病期間・認知機能・認知症の有無をすべて考えに入れたあとも変わり ませんでした。研究チームは、この数値がこれから幻視が現れるかどうかをあらかじめ見積もる 指標になったり、その部位をねらった治療の標的になったりしうると述べています。

✅ 患者さんへ

実際にないものが見える経験は、話すのが恥ずかしくて隠してしまいがちな症状です。けれどもこの 研究が示しているとおり、これは気持ちが弱いから起こることではなく、脳で起きている変化です。 そしてパーキンソン病の薬が原因になっていることもあるので、話していただければ調整できる余地が 生まれます。隠すほど対応が遅れます。

95人を対象にした研究であり、ここで使われたPET検査は研究用のもので、診察室で受けられる検査ではありません。「あらかじめ分かる」というのはまだ研究段階の可能性の話です。今は幻視がないからこの先もない、という意味でも、逆に近いうちに現れるという意味でもまったくありません。

🙋 ご家族へ

幻視をはじめて目にすると、ご家族のほうが驚いて「そんなものはない」と強く否定してしまいがち ですが、そうすると患者さんは次から話さなくなります。まずは驚かずに聞いたうえで、書きとめて おいて診察のときに伝えていただくことが、いちばん役に立ちます。薬の調整でよくなることが 多い症状です。

書きとめるときは、この四つがあれば十分です。

  • いつ — 時間帯(とくに夕暮れどきや夜に集まっていないか)
  • 何が — 人・動物・物のうち、何に見えたか
  • 本人がどう受け止めたか — 「実際にはないものだと分かっていた」のか、「本物だと信じていた」のか。この違いは診察でかなり重く扱われます
  • そのころ薬が変わったか — 量の調整や新しい薬の追加があったなら、それも一緒に書いておきます

幻視があるからといって、すぐに認知症になるという意味ではありません。ただ、そのままにしておくと だんだん頻度が増えることがあるので、早いうちに伝えて薬を調整するほうが結果がよくなります。


今できること

どちらのニュースも「悪くなった後」ではなく「その前」を指しています。診断の初期であれば リハビリを始める時期を次の診察のときに担当医療スタッフに相談してみてください。幻視のように 言い出しにくい症状があれば、書きとめておいてそのまま伝えてください。どちらも今日から始められる ことです。

この記事は、最近発表された研究や記事の内容をパーキンオンがやさしい言葉でまとめ直した ものです。医学的な診断や治療の代わりにはならず、各国での承認・導入状況とは関係ありません。 新しい治療について気になることがあれば、担当医療スタッフにご相談ください。