今回は、治療を細胞のなかまで届ける新しい方法と、皮膚や髪の色を決める遺伝子が パーキンソン病の進行の速さとどう関係するかについての二つの研究を紹介します。

ニュース1

細胞のなかに入れなかった抗体を、ナノ粒子で運びました

🔍 このような結果でした

テルアビブ大学・コーネル大学・イスラエル工科大学(テクニオン)の共同研究チームは、抗体を 細胞のなかまで届ける 脂質 ナノ粒子(LNP)脂質(油分)の膜で薬を包み、細胞のなかまで運ぶごく小さな運び役です。詳しく見る技術を開発しました。抗体は細胞の表面や細胞の外にある標的には強力ですが、 細胞膜を通り抜けられないため、細胞のなかにある標的にはこれまでほとんど使えませんでした。

研究チームは、SL4という合成分子で抗体を一時的に覆う方法でこの課題を解決しました。 覆われた抗体はナノ粒子に効率よく載り、細胞のなかに入ったあとは元の構造と働きを取り戻します。 この技術を アルファシヌクレイン脳のなかにもともと正常に存在するタンパク質です。パーキンソン病では異常に固まってドパミン神経細胞のなかにたまるとされています。詳しく見る を標的とする抗体に応用し、パーキンソン病の動物モデルに全身投与したところ、病的に固まった アルファシヌクレインの塊が大きく減りました。急性肺損傷モデルでも同じ方法を炎症に 関わる抗体に応用し、炎症の指標が減って肺の組織が改善することを確認しました。

“この方法は、複数のがん細胞株にさまざまな治療用抗体を効率よく届け、炎症とがんの信号伝達経路の重要な転写因子を抑えました。私たちはさらに、パーキンソン病に対するアルファシヌクレイン特異的抗体と、急性肺損傷に対するRelA特異的免疫グロブリンの全身送達も実証しました。”
— Proceedings of the National Academy of Sciences研究要旨
原文を見るの原文を見る

✅ 患者さんへ

これは人に使える治療薬ではなく、運ぶ技術そのものを確かめた動物モデルの研究です。 抗体治療はがんや自己免疫疾患ですでに広く使われていますが、細胞のなかにある標的を狙う治療は、 このような運ぶ技術が確立してはじめて人の臨床試験に進めます。

細胞のなかまで抗体を届ける技術が人で安全で効果があるかは、まだ確認されていません。この話だけで新しい治療がすぐに来ると考えないでください。

🙋 ご家族へ

「アルファシヌクレインを標的にした治療」という言葉に出会ったときは、それがどの段階にある 研究なのかを一緒に確認すると安心です。動物モデルの研究、人での初期の臨床試験、大規模な 臨床試験はそれぞれ異なる段階にあり、今回の研究はそのなかでもっとも早い段階にあります。

試験管に入った血液サンプル
ニュース2

MC1Rメラノコルチン1受容体の略称です。もともと皮膚や髪の色素沈着を決める遺伝子として知られています。今回の研究では黒質の神経細胞の酸化ストレス反応の調整にも関わることが示されました。詳しく見るの変異があると運動症状が最大63%速く悪化しました

🔍 このような結果でした

米国マサチューセッツ総合病院(ハーバード医科大学)の研究チームは、パーキンソン進行標識子 研究(PPMI)の参加者809人と、別の臨床試験の参加者587人、合わせて1,396人のデータを分析し、 MC1R遺伝子の機能低下変異と運動症状の進行の速さとの関係を調べました。MC1Rはもともと 皮膚や髪の色素沈着を決める遺伝子として知られており、この変異はヨーロッパ系の人の 60%以上が持つほどありふれています。

分析の結果、MC1R変異を持つ人は、持たない人に比べて UPDRSパーキンソン病の運動・非運動症状と日常生活への影響を評価する尺度です。詳しく見る の運動点数で30%速い運動機能の低下を示し、別の臨床試験の参加者グループではその差が 50%まで広がりました。両親ともから変異を受け継いだ場合は、進行の速さが63%まで 広がりました。まだ診断前の段階の参加者のなかでも、この変異を持つ人は実際にパーキンソン病に 移行するリスクが4倍以上高くなりました。

“孤発性パーキンソン病の参加者383人のうち、MC1R機能低下変異を持つ人は持たない人より30%速い運動機能の低下を示しました(P=.006)。再現コホートではその差は50%でした(P=.01)。”
— JAMA Neurology研究要旨
原文を見るの原文を見る

✅ 患者さんへ

MC1R変異はヨーロッパ系の人の多くが持つありふれた変異です。研究チームは、この変異が 簡単な遺伝子検査で進行の速い患者さんのグループをあらかじめ見分けるのに役立つ可能性が あり、今後の新薬開発の標的になりうるとも述べています。ただし、この研究は主にヨーロッパ系の 人を対象にしたもので、この結果がそのまま国内の患者さんに同じ割合で当てはまるかは確認されて いません。

この変異があるからといって、必ず速く悪化するという確定した診断ではありません。集団のあいだで統計的な差があったという意味であり、今すぐこの遺伝子検査を受けるべきだという根拠でもありません。

🙋 ご家族へ

遺伝子検査の結果に接することがあっても、その意味と次にすべきことは必ず担当医と相談して 決めてください。この研究で使われた検査は、まだ診療の現場で日常的に使われている検査では なく、結果の解釈には集団の背景やほかの遺伝子との組み合わせなど、いくつもの条件を合わせて 考える必要があります。


今できること

二つの研究はそれぞれ異なる段階にあります――ひとつは治療技術を動物モデルで確かめた段階、 もうひとつはすでにある遺伝子変異が実際の人でどんな違いを生むかを確かめた段階です。今すぐ できることは、新しい検査や治療を自分で探すことではなく、症状がどう変わっているかを 記録し、次の診察で担当医と共有することです。

この記事は、最近発表された研究やニュースをパーキンオンがわかりやすくまとめたものです。 診断や治療の代わりにはなりません。国内での承認・導入状況とは関係ありません。新しい治療に ついては担当医にご相談ください。